Project Description

自動車技術者の必需品「SAEペーパー」を電子化

開発者のアクセスを活性化,技術の底上げに貢献

自動車業界の技術者にとって必需品ともいえる「SAEペーパー」。そのSAEペーパーを電子化して,パソコンからいつでも呼び出せるようにしたIHS(Information Handling Services, Inc.)社のサービス「SAEデジタル・ライブラリー」が評判を呼んでいる。2003年から同サービスを利用している日産自動車に,同サービスがもたらす効果などについて取材をした。(日経Automotive Technology 2005年冬号掲載)

第一線で活躍する技術者や研究者にとって,最新の研究論文や関連工業規格,関連ドキュメントなどの文献や資 料を調査する作業は,業務を進める上で欠かせないものだ。もちろん,これは自動車業界でも同じこと。なかでも,米国自動車技術会(SAE:Society of Automotive Engineers)が発行する,いわゆるSAEペーパーには,自動車関係の最新技術情報が掲載されており,自動車技術者にとって必需品とも言える資料である。

ところが,これまで発行されたSAEペーパーは膨大な量に及ぶ。社内に保管しようとすると,それに見合うスペース を用意しなければならない。このため事業所ごとにSAEペーパーを抱えるのは難しい。SAEペーパーが近くに保管されていない事業所の技術者は,SAEペーパーを閲覧するたびに,SAEペーパーを置いている事業所に出向かなければならない。何よりもたいへんなのは,膨大な数のペーパーの中から必要なものを探し出すための作業である。

そこで,このSAEペーパーを電子化して,パソコンで検索できるようにしようというサービスが登場した。それが,SAEが自らホスティングする「SAE デジタル・ライブラリー」(販売元:IHS – InformationHandling Services, Inc.)だ。同サービスを利用すれば,社内LAN上のパソコンから,いつでもSAEペーパーを閲覧できる。自分のオフィスに居ながらにして2万5000件を超えるSAEペーパーが閲覧できるわけだ。必要なソフトウエアは,汎用ブラウザと「Acrobat Reader」だけ。専用ソフトウエアをインストールする必要はない。最新のペーパーは発行後,速やかにデータベースに加えられるので,最新のペーパーにいち早くアクセスできる。これまでのようにリアルのペーパーが送られてくるのを待たずに済む。

SAEペーパーの電子化によって資料閲覧のスピード化・効率化を実現

実際の現場で「SAEデジタル・ライブラリー」がどのように活用されているのか,神奈川県厚木市にある日産自動車テクニカルセンターでお話をうかがった。

nissan_ozawa 「『SAEデジタル・ライブラリー』を知ったとき,『これは使える!』と直感しました」と語るのは,リソースマネージメント本部・第一資源管理グループ主担の小澤昭彦氏である。「社内の技術者の誰もが,必要なときに,すぐにSAEペーパーを閲覧できるようにすることで,社内全体の技術レベルの底上げに貢献できると考えました」(小澤氏)。

SAEペーパーに掲載されているコンテンツの中で特に重要なのが,「SAE ワールド・コングレス」や「FISITA ワールド・コングレス」など,SAEが主催する自動車関連の国際会議や国際シンポジウムで,世界の大手自動車メーカーの技術者が発表した最新技術論文である。「競合他社の開発状況をうかがい知ることができる貴重な資料です。技術者が自分で開発した技術の新規性を検証するうえで,他社が発表した論文のサーベイは重要な作業です」(同社リソースマネージメント本部リソースマネージメント部エグゼクティブサポート・技術広報グループの寺坂克統氏)。

nissan_terasakaそれほど重要なSAEのペーパーなのだが,これまで,社内の誰もが簡単に閲覧できるというわけではなかった。
「日産自動車の場合,テクニカルセンターにライブラリーを設けて,そこに紙媒体のSAEペーパーを保管しています。別の区や研究所に勤務する技術者は,SAEペーパーを見るために,わざわざテクニカルセンターまで足を運ばなければなりませんでした。このために1日を割いて出張してきた人さえいました」(寺坂氏)。ところが,SAEデジタル・ライブラリーの導入によって,そんな苦労も昔話になったという。デスクに置いてあるパソコンを使って,必要なときにSAEペーパーの閲覧ができるようになったからだ。

充実した検索機能で一次データに直接アクセス

もう一つの大きな利点は検索の手間が省けることだという。紙媒体だけの時代には,必要な資料を選ぶために大変 な労力を必要としていたと言う。膨大な数の英文のペーパーを手にとって,自分の目で探し出さなければならなかったからだ。SAEデジタル・ライブラリーならば多機能な検索システムを利用して,必要な情報を速やかに探し出すことができる。たとえば,「エンジン」,「ブレーキ」,「タイヤ」といったキーワードで検索できる。文書タイトル,発行期間,著者,組織名などのデータを使った検索も可能だ。

「これまでは検索にかかる負荷が大きかったことから,SAEペーパーの概要をまとめた資料を基に論文を検索する利用者が少なくありませんでした。つまり,いわゆる“ニ次データ”を使って検索していたわけです。SAEデジタル・ライブラリーを使えば,いきなり,原本である“一次データ”にアクセスしながら論文を検索できるようになります。手間が省けるだけでなく,より確かな情報を豊富に得ることができるようになりました」(小澤氏)

コストの点でも,「SAEデジタル・ライブラリー」は有利だという。同社の場合,コストの制約からSAEペーパーのうち重要と思われるもの2500件に絞って購入・保管していたという。現在同社内の事業所5か所で契約しているSAEデジタル・ライブラリーの費用は,紙媒体で保管する費用の約半分で済んでいるという。閲覧だけのために使う出張費や時間のロスなどによって生じるコストを加えると,紙媒体と電子媒体を利用したときの,差はさらに広がるはずだ。

「導入から約1年しか経っていませんが,すでになくてはならない存在です。従来は,事業所によってアクセスできる情報量にバラつきがありました。電子化したおかげで,均等に情報がいきわたるようになったことを強く感じます」(寺坂氏)。
最初の狙いどおり,「SAEデジタル・ライブラリー」の導入によって,会社全体の技術の底上げは順調に進んでいるようだ。